天河
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上田の手前の小さな村で慶次は微かな鈴の音を聞き、
誘われるように街道を外れ小道へと足を進めた
村の中心に来ると男衆が火を焚き小太鼓を鳴らしている
「祭かぁ…こりゃいい時期に出くわした」
慶次は赤々と燃え盛る炎を見ながら、ふとこれから会いに行く
若子を思い出した
無意識ににんまりと笑みを浮かべ土産話にしてやろうと
近くにいた若い男に声をたけた
「何を奉ってんだい?」
男は日の高いうちからすでに酔っ払っているらしく、上機嫌で慶次に酒を勧める
「天照様でさぁ、お侍様」
「ふーん…日の神様か」
「この村じゃ男が雨乞いして、女が日照りを乞う為に別々に天照様を奉るしきたりで」
「じゃ、女達は別の場所で神事を行ってんのかい?」
慶次が興味深そうに尋ねると、男は声をひそめた
「村の娘が集まって巫女様と一緒に村はずれの山の麓で一昼夜拝み続けとります」
「巫女さんか!そりゃ綺麗なんだろうな」
「へぇ!そりゃもう偉い別嬪で…あ、でも男子禁制じゃから、
山に入ってはいかん慣わしに」
その別嬪さ具合を面白可笑しく幸村に話したら
きっとあの純朴な青年は顔を真っ赤にして取り乱すだろう
慶次はそんな想像をして、思わず噴出しそうになる口元を押さえた
「天照大神様はおなごの神様じゃから、禁を破って神域に男が入ると
恐ろしい罰が下るとか…」
よしよし、尾ひれをつけて美しい巫女と村娘の神事の話をしてやろう
慶次は男の話も聞かず、もらった酒をグイっとあおると
街道へ戻るふりをして村はずれの神社へ向かった
鳥居をくぐり、高い杉の木々から差し込む木漏れ日を浴びながら鈴の音を追うと
古びた神社の前で白い着物に身を包んだ村娘が輪をつくり
その中心で巫女が神事を行っていた
『へぇ…』
荘厳な雰囲気に圧倒されながらも、慶次は歩みを進めた
村人が言う通り巫女は美しく漆黒の真っ直ぐな髪が
昔、失った彼の女を思い出させ、引き寄せられるように近づいた
瞬間ー
ビシッ!小さな雷のような衝撃が体を駆け抜け、驚いてもんどりうった
「いでッ!」
尻餅をついて転がると、一斉に女達が慶次を見た
驚きと不審の混じった視線に慌てて弁明する
「あっ…ごめんよ!ちょっと見物してただけ!すぐに行くからさ!」
巫女がズイっと前に出て慶次を一喝した
「御神様のお怒りが下った…はよう此処から去ね!」
巫女の気迫に、慶次は口も利けずにそのまま山を下り、街道へ戻った
しばらく歩くと見知った上田の城下町へ出て
商人の賑やかな声にようやく深い溜め息をついた
「はぁ〜…怖かったな、夢吉」
肩の小猿に話しかけるとキキっと小さく鳴いて指差す
その先に幸村が気に入っている団子屋があった
「よし!さっきのは忘れて、団子をもって幸村のとこに急ぐか!」
慶次は店の娘と少し話しをしてから、団子を包んでもらい城へ向かった
城門をくぐると、音もなく忍が慶次の前に現れ
呆れたように肩をすくめる
「また来たの?前田の旦那」
「よう!佐助さん」
そう言いながら慶次は佐助の背中をバンバン叩いた
「っ…いた!あのね…一応アンタと武田は敵同士なんだけど?」
「俺は前田家とはなんの関係もない!天下一の傾奇者、前田慶次よ!」
「…いや、でも前田だろ?」
佐助が苦笑いを浮かべていると、石段を転げるように幸村が駆け下りてきた
「慶次殿!お待ちしておりましたぞっ!」
「応!幸村っ元気にしてたかっと…!」
慶次は懐に飛び込んできた幸村を抱きとめた
「むっ!慶次殿、一層お体を鍛えられましたな」
幸村は感嘆しながら慶次の胸板を撫でた
「えっ?そうかい?路銀稼ぐ為に橋架けの木材運び手伝ったからかなぁ」
ケロリと呑気な表情で笑う慶次に幸村もつられて笑みを浮かべた
慶次の強さが日々の鍛錬によるものでなく天武の才と知った当初はその不合理さにやり場のない苛立ちを抱いた幸村だった
だが、己の教養や武芸を鼻にかけない慶次の大らかな性格に幸村はいつしか男として慶次を慕うようになっていた
「さすがは慶次殿!されど、この幸村も尋常でない鍛錬を致しました故、
今度こそは負けませぬ!」
「いや…俺のは単に金稼ぎ…」
「さあさあ!早よう、道場へ参りましょうぞ!」
佐助は、騒がしく遠ざかる主と慶次の後ろ姿に
無意識に笑みを浮かべた
結局、試合は引き分け
道場を半壊させたところで忍に止められ、幸村と慶次はこってり絞られた後
酒を呑みながら夕餉をとり、早めに床についた
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翌日、慶次は早寝したのもあり珍しく障子から差し込む朝日で目が覚め
次いで体の異変に気づいた
「うあ゛っ!?」
叫んだわけではなかったが慶次の驚き声に忍が素早く反応する
音もなく天井から降りたち大げさに肩をすくめてみせる
「どうしたの慶ちゃん?あ、俺様べつに監視してた訳じゃないから…って…
え?…な、何?ソレ」
「な…何って…ち…乳じゃないのか…」
慶次の声は上擦っていて、いつもより甲高い
「え……慶ちゃんって…女だったの」
「え……いや…違う…はずだけど…」
昨夜までぴったりだったはずの寝間着が大きすぎで肩をずり落ち
幸村が感嘆するほどの厚い胸板が豊満な2つの玉になっている
「ちょ…それ、本物?」
「わかんねぇ…」
「確認していい?」
「うん…」
度肝を抜かれるほど驚いた佐助だが、冷静になるのも早かった
そっと手を伸ばし、むにゅっと鷲掴む
「…」
作りものの類いでないのは弾力や吸いつくような
なめらかな肌の感触から明らかだった
「慶ちゃん…下はどうなってんの」
「へっ…わ…かんねぇ」
佐助は無言で慶次の股を開き股関に手を伸ばした
「な…ない、ね…」
「えっ?う…嘘だろ」
放心状態だった慶次は男の象徴といえる一物がないという佐助の言葉にうろたえ、
ジワリと涙を浮かばせた
「だって、ホラ」
佐助は緩い下帯の上から割れ目を中指でなぞる
「あっ」
ピクンと腰が震え甘い声を上げた時
障子がパーンと左右に開いた
「慶次殿!お早うござりまする!朝の鍛錬に…なっ!!?」
「旦那っ」
「うっ、うう〜」
女の股ぐらを弄っている佐助を見て
幸村は目を瞑り、真っ赤にした顔を背けながら怒鳴った
「佐助ぇ!!おっ…お前は何と破廉恥な真似を!
しかも慶次殿の部屋に女を連れ込むとはっ!!」
「ち!違うって旦那!これが慶ちゃんなんだって!」
「なっ!何を!なっ…」
幸村は顔を覆いながら指の間からそっと女を見ると確かに顔立ちは慶次のようで…
そんな馬鹿な、と凝視した視界に豊満な乳が飛び込みその場にひっくり返った
幸村が目を覚ました数刻後
頭を悩ませる三人の姿があった
「と、言うことは某が昨日慶次殿を吹っ飛ばした衝撃で…。
この幸村何と詫びを入れれば良いものか…」
正座した膝の上の拳を震わせる幸村に佐助は笑顔をひきつらせた
「いや、俺が言ったのは何かいつもと違う衝撃を受けなかったかってこと。
何か変わったもん食べたりさ…」
「う〜ん…別に拾い食いもしてないし…」
「ではやはり俺の拳で慶次殿が吹っ飛んで尻餅をついたせいではないかっ!」
その時、慶次が小さな声を上げた
「何?なにか心当たりある?」
佐助が身を乗り出すと慶次は頷いた
「幸村との殴り愛で忘れてたけどさ尻餅で思い出した!実は昨日ここに来る途中…」
慶次は村での神事の際、雷のような衝撃を受けたことを話した
「…なるほど。女の神様を怒らせたバチが当たったてわけか」
「佐助さん…身も蓋もないこと言わず助けておくれよ〜」
「慶次殿にバチを下すとは!なんとけしからん神を祀っている村だっ!
そのような村は焼き払って…」
立ち上がる幸村を佐助が慌てて止める
「どう考えも慶ちゃんが悪いだろ!?なんでも首突っ込むからこんな目に合うんだよ」
慶次はガックリと首部を垂れた
「ごめんよ…幸村に面白い話でもしてやろうと思ってついさ…」
気を落とす慶次に佐助が柔らかく肩を叩く
「ま、調べておくからさ!案外、明日起きたら男に戻ってるかもよ」
「そうだよな…佐助さん」
翌日、淡い期待が打ち砕かれただけだった