星命
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「利ッ!!」
慶次の声に振り返る
自分を守る壁のような
背の高い甥の背中が見えた
「慶次っ!!」
まつの悲鳴のような叫びと共に
薙刀が振り下ろされ、視界の端にいた毛利の武将が倒れる
同時に
広い背中に生えていた銀色の刃が抜かれ、見る間に黄色の衣装が赤く染まってゆく
「けい…じ…?」
糸の切れた人形のようにガクリと膝をつく甥を腕に抱いた
「利、大…丈夫か?」
「慶次…」
駆け寄ったまつが声を震わせて叫んだ
「慶次!しっかりなさい!逝ってはなりせんっ!!」
「まつ…ねぇちゃん…利」
ゴボリと濁った音と共に慶次の口から真っ赤な血が溢れ落ちた
戦嫌いの甥は傷一つない綺麗な顔をしていた
紙のように白い顔に紅をさしたような血で濡れる唇が
とても綺麗だと思った
気道を塞ぐ血を息苦しそうに吐き出し、何かを言おうと必死に呼吸をしている
自分を守って負った傷は致命傷に見えた
「慶次ッ今少し堪えなさい!すぐに手当てをッ」
まつは自分の衣を破き、血の溢れる傷口を押さえながら泣いた
まるで水を吸い込む乾いた土のように、あっという間に血に染まる布を見て
慶次はもう助からないと悟った
「慶次…また、逢おうな」
「犬千代さまッ!!」
涙をボロボロ零しながら、まつは利家を見た
泣いてるように悲しく微笑む利家に
まつは込み上げる嗚咽に唇を噛んだ
慶次も利家に応えるように微笑む
「利…まつねぇちゃん…俺、ふたりの…」
慶次の澄んだ瞳が二人を見上げる
「ふたりの…子に…生まれ変わっても…いいかい?」
慶次に覆いかぶさって、泣き崩れるまつの背をさすりながら
利家は慶次の手を握った
「慶次…待ってる…待ってるからな」
黒曜石の濡れた瞳が嬉しそうに細まり
スーッと瞳孔が開いた
握った手から力が抜けるのを感じ、利家は顔を上げた
援軍の旗が土ぼこりの向こうにぼんやり見える
頭上でギャアギャアと鴉が鳴いた