堕天


焦土と化した焼け野原に横たわる死体と呻き声

『…地獄絵図だな』

慶次は、死臭と焦げた匂いにむせながら深く息を吐いた

進軍してきた豊臣の軍勢と交戦すること数刻

少数精鋭が自慢の前田軍もその力を発揮する機会もないまま
あっという間に加賀の地は焼け野原と化した

『こりゃ流石に辞世の句でも考えた方がいいかな…』
肩に刺さった矢を抜くと血が吹き出し
痛みに顔を歪めた

「慶次、大丈夫か!?」

顔を上げると利家が血に染まった姿で寄ってきた
自分の血なのか返り血なのか…その精悍な顔は真っ青だった

「へっ…利こそ」
「最期まで諦めぬが…そろそろお前に介錯を頼まねばならんかもしれん」
「やーなこった」

超刀をグンと前に突き出すがいつもは感じないその刀の重さに息が上がる
「なぁ利、俺のせい…だよな」
「…なにがだ」
「秀吉を止めれなかった俺の」

馬鹿な!と利家の怒声が戦場に響く

「お前は未だにその様なことをッ」
利家は慶次にすがりその胸を弱々しく叩いた
「お前は馬鹿だ」

涙を流す利家を見て慶次は悲しくて震えるその肩を撫でた

「ごめん…ごめんな、利」


「殿ぉ!!」
その時、遠くから馬に乗った伝令が駆け寄り
転がり落ちる勢いで利家に書状を差し出した

「殿!と…豊臣からの伝書にございます!」

「何」

血に濡れた手で紙を広げる利家の目が見開かれ
それを地面に叩きつけた
怒りに震えている

その書を拾い上げた慶次は書かれている内容に目を見開いた

「利…」
「ふざけおって豊臣めッ!」

慶次は自分と引き換えに利家と家臣の命を助けると書かれていた書状を握りしめ
伝令が乗ってきた馬に跨った

「…利、俺はいくよ」
「ならぬッ!絶対にならぬ!!」

「利は加賀をおさめる殿様だろ?」

「慶次!お前がどれだけヤツに苦しめられてきたか!
某はお前を手放さん!いっそこの地で共に果て…」
「利ッ!!」

血を吐くような慶次の叫びに利家は息をのむ

「けい…じ…」

「まつねぇちゃんと幸せにな」

利家は涙で霞む目をこすり
馬の尾を掴んだ

「行かせん!行かせんぞ慶次!!」

「利!さよならだ」

そう言うと超刀を振り下ろし利家が掴んで離さない馬の毛を切るとその横腹を蹴った

馬が勢いよく走り出し、なお追いすがろとする利家は足元がもつれその場に転がる


「…慶次!!慶次ーッ」


利家の叫びが荒れた加賀の地に響いた

***********************




飛べるのに飛ばない鳥はねぇ
慶次くん

罪なんだよ



君のようにね、力があるのに使わない人間は
それだけで罪なんだ


羽があっても飛べないものにとって
君の存在自体が苦痛になる


だからね、慶次くん

君は存分に羽ばたいて
ソイツらの羽をもぎ取ってやるのが


慈悲というものだ


わかるかい?



「慶次くん?」

懐かしい友の声に慶次はスッと目を開いた
「……半兵衛」
「久しぶりだね」
「…?」

大きく太い腕で体を後ろから抱え込まれていることに気づき
慶次は肩越しに後ろを見上げた

「な…っ…秀吉?」

秀吉は答えることなく、膝の上にのせた慶次の腰を少し持ち上げる
初めて慶次は自分が全裸で、自分の中に秀吉の凶器のようにそそり勃つ一物が
埋め込まれようとしている状況を知った

「え…、何…」

うろたえる慶次の頬を半兵衛が優しく撫で上げる

「利家君の命を助けたんだ…今度は君が僕たちの願いを叶える番だよ?」
「願い…」

慶次の澄んだ瞳が不安と恐怖に彩られてゆくのを見て
半兵衛は妖艶な笑みを浮かべた



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