真紅
静まり返った屋敷内に廊下をダンダンと歩く物凄い音が響く
機嫌が悪いらしい雅の様子を察し、明はため息をついた
徐々に近づく足音は明の部屋の前で止まり、襖が乱暴に開けられる
「…雅、靴くらい屋敷の中では脱げよ」
冷静を装って言うものの、怒りで我を忘れている雅に理屈は通じない
肩を掴まれ、畳に突き飛ばされた
「ッ…雅!」
覆いかぶさってきた雅の体を押しのけようとした瞬間
首筋に牙が突き刺さる
「うっ!!」
皮膚を焼くような激痛に、体の筋肉が硬直する
穿たれた肉が熱を持ち、溢れ出す液体が首筋から流れ落ちた
雅の唇と舌が血液をジュルジュルと吸い上げる音が遠くに聞こえる
グラッと激しい眩暈がして、雅の背中に縋り付つこうとしたが
弛緩した腕はダラリと畳の上に落ちた
代わりに雅の腕が力強く、明の腰と背中を支える
自分の浅く短い呼吸しか聞こえない
薄れる視界と麻痺していく感覚
何度吸血されても、この行為になれることはなかったが
明は抵抗しなかった
意識を失いかけたところで、牙が抜かれ
着ている服を剥がされる
「…雅」
名前を呼んでも返事をしない雅に不安が増した
視界が霞むせいで、雅の表情がわからない
突然、両足を大きく開かれ間に雅が割って腰を入れてきた気配に
明は動揺した
吸血行為で体が快感に敏感になっているとはいえ
慣らさずに受け入れられる器官ではない
「ッ!雅!…まっ」
制止の言葉を振り切るように
体を裂くような衝撃が走る
「!!!」
息が止まり、額と背中に冷たい汗が流れる
「うッ…ぁ!…あッ…」
狭い穴を強引に割って硬い先端が挿入される
差し込まれた入り口が熱い
「みやッび…まっ…待てッ!!」
いくら空気を吸い込んでも呼吸が楽にならない
体が全身で拒絶している
太ももの内側を押し広げていた雅の両手が、明の腰に移動した
少し持ち上げ、叩き付けるように自分の腰を打ちつけた
雅の太く硬いペニスが腸壁を無理やり広げる
あまりの圧迫感に明は悲鳴を上げた
「ぐぅ…ああぁッ!!」
中の異物感と痛みを散らそうと畳に爪を立てた
「…雅ッ…みや…び…っ」
明は雅の名前を呼び続けた
太い肉棒が激しく後ろの穴を抉る
前立腺を亀頭で擦りあげるように最奥へ突かれたかと思うと
ズルっと入り口ギリギリまで引き抜き、再び奥へ打ち付けられる
まるで人形のようにガクガクと揺さぶられ、
結合部の水音や肌がぶつかる乾いた音が響いた
いつの間にか苦痛はなくなり
下腹部からジワジワと快感が広がる
一度も触れられていないのに明のペニスは完全に勃起し
尿道からは次々と透明な液が溢れ、竿をヌルヌルにしていた
「あっ…ん!…ぁあ、みや…びぃっ…!」
ズンっと体の中に雅のデカイものが入る度に、目が眩むような
強い快楽が押し寄せる
「ひっ…ぁ!いっ!…イイッ!雅っ…気持ちいいっ!」
我を忘れて嬌声を上げる明は駆け上がる射精感に
ギュっと雅のペニスを咥え込んだ穴を締め付けた
それに反応して中のモノがビクンっ脈打ち一際大きさを増す
「うぁッ!!雅ぃ…も、い イクッ!」
明の懇願に雅は焦らすように、わざと緩慢な動きに切り替える
「…ぁ…みや…び…?」
物足りなさそうに、涙に潤んだ明の目が雅を見上げる
「フン、貴様はとんでもない淫乱だな」
雅の冷ややかな声に、明はキュっと唇を噛んで視線を逸らす
「っ…こ、こんなカラダにしたの!…お前だろ雅っ」
羞恥に顔を真っ赤にする明を見て
雅は口角をニヤリと吊り上げる
「こんなカラダとは、尻の穴に突っ込まれただけでイッてしまうようなカラダか?」
雅はおもむろに、明のペニスを握り込むと緩やかに扱いた
「ああっ!んっ!…みや、びっ、あぁ!」
性器への刺激に、内腿が細かく震える
雅は小指の爪先を、先走りが溢れる尿道へ差し込んだ
「ひぃ!!」
突然の痛みに明は掠れた声を上げ息を呑んだ
額に冷や汗が浮かぶ程の痛みに耐える
雅は小さな尿道の入り口にグリグリと指先を押し入れた
「あああぁ!!!やっ!やめッ、ろ!」
言葉とは反対に明のペニスはビクビク脈打ち怒張している
「フッ…イキたそうだな」
強引に差し込んだ尿道からは白く濁った精液が溢れてきた
雅は緩慢だった腰の動きを速めた
「はっぁ!あ、あんっ!みやぁ…ああ!」
明は尿道と前立腺を同時に攻められ、強すぎる快感に涎を垂らしながら喘いだ
明の乱れる姿に雅は満足そうな笑みを浮かべる
「どうして欲しい?明」
「ゆっ指!抜いて、くれ!もぅイキたいッ」
泣き叫ぶ明の尿道から指を抜くと、勢いよくビュクビュクっと精液が噴き出した
「あッ!あ、あああぁーー!!」
背を反らせて、射精する明の腰を再びしっかり掴むと
雅は激しく腰を打ちつけた
「…っ、明」
「あっ!あっ!雅ッ!欲しいッ!雅のっ…」
内壁を擦られるたびに明の性器からは断続的に精液が零れる
力の入らない両手を雅の腰に回し、深い結合を求めて腰を浮かす
「私の?…何が欲しい?」
雅は息を乱しながらも、意地悪く訊く
「雅のっ…、雅の精液っ中にいっぱいッ…欲しぃ!」
快楽に溺れる明は、更なる絶頂を求めて雅のペニスをギュウっとキツク締め付けた
「…ッ!出すぞ、明」
「ああぁ!やッ!またイクっ、雅ッ!雅ッ!」
前立腺を擦られながら最奥へ差し込まれ、電気のような快感にカラダがビクンッと跳ね上がった
瞬間、イキっぱなしだった明のペニスから一層濃い精液がドプドプッと飛び散る
雅も明の体を壊さんばかりに突き上げ、熱い体内に大量の精液を注ぎ込んだ
雅が動く度に中に出した精液が、ぐちゃぐちゃと掻き回され、
柔らかくなった穴から溢れ出る
射精の快感に、放心する明の顎をとらえ雅は唇を重ねた
「んっ…」
「明」
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一面の焼け野原
何処からともなく聞える呻き声に合わせる様に鴉の鳴声が響く
咽返るほどの血と煙硝の匂い
横たわる仲間の死体
全て失ったと理解した瞬間、絶叫した
その声に反応するものは一切ない
明は力なく地面に崩れ落ちた
「…残念だったな、明」
緩々と視線を上げると、自分の全てを奪った張本人
雅が此方を見ていた
その表情は意外にも特有の冷笑は浮かんでいない
「私のものになれ」
雅の声を明はぼんやりと聞いていた
不意にひとつの疑問が浮かんだ
何故、そこまで…執着する
雅の、兄である篤や、自分に対するこの執着は
いったい何なのだ?
近づいた雅は足を止め、見上げる明の頬に手を伸ばし、そっと包んだ
氷のように冷たいかと思った明は
微かな体温に少し驚いた
「明」
抑揚のない明に雅が声をかける
雅を目の前にしても怒りや憎悪は湧き起こらない
完全な敗北を前に
守るもの全て失った事実に
復讐する気力もなくなった明の心は空になっていた
「みや…び…」
掠れた声で名を呼ぶと、雅は僅かに目を細めた
そしてもう一度
「私のものになれ」と囁くように言った
その、微かな声音に感じた
執着の意味を
その言葉の通り、『欲しかった』のだと
自分だけを求めて、自分だけを愛してくれる存在を
幼稚な我欲のために手段を選ばないその執念
震撼と高揚感でゾクリと背筋が震えた
そんなに自分が欲しいのか?
かつて是ほどまでに誰かに求められたことがあっただろうか
求めに応じれば、それ以上に応えてくれる
あの雅にこんな感情を抱くなんて
明は自嘲すると、緩慢な動きで立ち上がった
(オレは…)
他人事のように思いながら、雅の襟元を掴んで引き寄せる
(オレは…狂ってるな)
少し背伸びをして雅に唇を重ねた
雅は微塵も動かず、だた驚愕した様子で明の口付けを受け入れていた
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「明、愛してると言え」
「雅…好きだ…愛してる」
雅は激昂のままに、明を乱暴に抱くことがある
その度に、雅は愛の言葉を求めた
雅の舌が明の薄く開いた口を割って入る
舌を絡ませ合い、口腔の粘膜の感触を味わう
再び腰の律動を始め
後孔に差し込んだままだった硬いペニスでズンっと奥を突く
「うっ…ぁ!」
明は堪らず甘い喘ぎを漏らした
「もっと私を求めろ、明」
抱き合うごとに、繋がりを確信できる
それが茨のように心とカラダに
深く突き刺さり、喰い込んでいく
絶対に絶ち切れないように
雅は体で、明は言葉で
互いを縛りあった