満天
ああ…
愛おしい慶次殿
「……き」
慶次殿が某を好いて下されば
なんと幸せなことか!
武功を上げるより
日本一の強者になるより
何倍も心が惹かれる
慶次殿がいて下されば
某を好いて下されば
この世など滅んでもかまわぬ
「ゆ…き」
幸村がハッと顔を上げると
怪訝な様子で慶次が顔を覗き込んできた
「大丈夫かい?」
近すぎる慶次の顔に幸村はとっさに背をのけぞらせる
「っ…だ!大丈夫でござる」
「そっか〜?…でさ、話戻すけど…」
今度は幸村同様に慶次も微かに頬を赤くする
ああ…
慶次殿
なんと愛しい
その曇りのない瞳を縁取る長い睫も
花のような香りも
艶やかな長い髪も
貴殿をつくる全てが…
「幸村は好きな人、できたかい?」
「……」
幸村は黙って慶次の横顔を見つめた
「俺さ、実は…」
*********
城の奥
幸村の私室に悲鳴が響いた
「やっ!やめろッ!ゆきッ…」
幸村の目は尋常でない暗さをたたえ
口角をつり上げで笑っていた
「慶次殿…もっと俺の名を呼んで下され!」
体に跨る幸村を押しのけようと慶次はめいっぱい抵抗する
涙の滲むその顔を幸村はためらいもなく平手打ちし、
怯んだすきに両手を捻り上げ自分の帯で縛り付けた
「ゆっ…き…」
「慶次殿…」
口から血の混じった唾液を垂れ流し、
恐怖のためか細かく瞼を震わせる慶次が愛おしくて
幸村はもう一度、頬を叩いた
「う゛ッ…!」
苦しげに歪む慶次の表情に幸村はうっとりと目を細めた
「…なんとお美しい…」
力の入らない腕で這い逃れようとする慶次をうつ伏せに抑えつけると
幸村はその派手な服を剥ぎ取って
己の猛りきった肉棒を取り出し慶次の尻を左右に押し開く
その中心に熱を感じ慶次は叫んだ
「やっ!やめろッ…あァッ…!」
幸村は慣らしていない慶次の蕾に力づくで先端をねじ込んだ
「い゛ッ!ぐっああぁッー!」
幸村の反り返りった固い肉棒が抉るように穴を押し広げ、
容赦なく狭い直腸の奥へグイグイと侵入してくる
慶次は焼けるような痛みと内臓を圧迫される苦しさに絶叫した
「あ゛ァッ…あ゛ああァーッ!」
幸村は無理やり慶次の中に根元まで陰茎をおさめ、短く息を吐いた
入口はキツく幸村のモノを締め付け、中は熱い肉壁がうねるように蠢動している
「ああ…慶次殿の中はなんと心地良い!」
せり上がる射精感を耐え
ズルリと亀頭のギリギリまで引き抜く
そして脈打つ一物でズンッと最奥を突き上げた
「うぐぅっ…!!」
「慶…次…殿っ」
慶次はビリッと痺れるような強い快感が下半身から頭へ突き抜けるのを感じ
無意識に畳に爪を立てた
慶次の声に苦痛だけでない甘さが混じっているのに気づいた幸村は
イイ場所を探るように腰を動かす
「あ…あ゛ッ!ゆきッ…や…だぁ!」
「もっと呼んで下され」
グリグリと穴を肉棒でなぶられ次第に固いだけだった入口もほぐれ、
一層幸村の陰茎に絡みつくように収縮する
「うあ…ああっ…やぁッ!やめ…ろッ!幸村ぁッ!」
ある一点を先端で擦った時
慶次が甲高い、かすれた声を上げた
「ひっ…う!」
「此処…でござるか?」
幸村は喉の奥でクっと笑い
その肉壁をグリっと突き上げる
「うあ゛!あッあぁ…ゆきぃ」
幸村が慶次の前へ手を伸ばし緩々と扱いてやると
痛みで萎縮していた陰茎が見る間に芯をもって固さを増し
先端からは先走りの滑った液が溢れてきた
「ひっ…ぅ!」
「俺の名を…」
幸村は慶次の腰をつかみ
猛然と腰を突き動かし始めた
「うあ゛あぁッ!!」
叩きつけるように腰を振り
慶次の後孔に猛る肉棒を突き入れる度
グチュグチュと淫猥な水音と肌のぶつかり合う乾いた音が響く
慶次は激しい快感に内股を震わせ喘いた
「あ!っ…やっ…あ、あッ!」
たまらず勃起した陰茎の先端からピュッと精液が飛び出す
「あ゛ッ!やっ、やだッやッ!」
一度漏れた精液は止まらず
立て続けにビュルビュルっと白濁した液が迸る
「やッ、う゛あッ!あぁっーー!!」
強い快感に痙攣しながら射精した勢いで
幸村をくわえ込んでいた穴がギュウと締まる
「くぅ…某も…慶次殿の中にっ」
幸村は低く呻いて、グンッと張り詰めたモノを突き刺し、
慶次の直腸にドクドクと大量の精液を注ぎ込んだ
「いやだあ゛ああッ」
慶次はドップリと熱い液体が中に広がる感覚に嗚咽をもらした
「う゛うっ…ううっ…」
「慶次殿ッ」
幸村は慶次が泣くのも構わず、射精で萎えるどころか更に固く勃起したモノで
逆流する精液をかき回しすように突き入れた
「…慶次殿、俺の名を呼んで下され」
「うぐっ…あ…ゆっ…幸村…ッ」
他の名を呼ぶならば
そのような言葉が言えぬように…
******
(?)
佐助は任務を終え、木々を飛び移り庭先へ降り立った
忍の鋭い感覚でいつもと違う空気を読み取り、
警戒しながら幸村の私室の前へ歩みよる
「…幸村様」
縁側奥の障子にうっすら人影がうつっている
気配も幸村のものなのに何故返事がないのか、
急速に湧き上がる不穏な予感を打ち消すように
佐助は障子を開けた
「…旦…那」
佐助は息をのみ、その場に凍りついた
目に飛び込んできたのは
精液と血にまみれ、横たわる慶次と
そのそばで虚ろな目を空に漂わせている幸村の姿だった
驚いたのは一瞬で佐助はすぐに冷静さを取り戻すと音もなく中へ入り
そっと慶次の首筋に手をあてる
トクンと脈の鼓動を感じ、佐助はようやく息を吐いた
佐助は幸村には声をかけず、一旦部屋を出てすぐ湯の入った桶と真新しい着物をもって戻ると
手早く慶次の身を清め、傷付いた所に薬を塗って手当てを済ませた
気を失って身動きすらしない慶次を布団に横たえると、
幸村を連れ隣の部屋へと移動した
幸村と真向かいに座して佐助は静かに問いかける
「どうしたの?旦那」
佐助は幸村が慶次に対して抱く恋情を知っていた
(いつかこうなるんじゃないかと嫌な予感がしたけど…)
幸村の奥底にある狂気が暴走しないことを祈っていたが
精液で汚れた慶次の様子を思い出すと
胸がズキリと痛んだ
しばらく間をおいて幸村がポツポツと話出しす
「俺は…慶次殿を好いておる…」
「うん、知ってる…でもだったらどうしてあんなことしたの?」
「慶次殿が…」
「慶ちゃんが?」
幸村は無表情だった顔を歪めて口を噤んだ
膝に置かれた拳がぶるぶると震えている
「…旦那、黙ってちゃわからないよ?」
「…慶次殿に好きなお方がいて……俺ではなかったのだ」
「…そっか……」
幸村がボソボソ呟く
佐助が聞き返す
「慶次殿は…佐助を好いておるそうだ」
目を見開く佐助を見て、幸村は滑稽そうに声を上げて笑い出した
「旦那っ…」
このままではダメになる
慶次も
幸村も
佐助は幸村の両肩を掴み正面から見据えた
「旦那、大丈夫。俺様き任せなって」
「何を言っておる佐助、あの様な仕打ちをして許されるわけもなし」
もう、終わりだ
そう力なく言う幸村を叱責する
「慶ちゃんの記憶を消す。俺への想いも全て。
ここへ初めてきたまっさらな状態に戻すんだよ」
幸村は唖然として佐助を見た
「慶ちゃんを惚れさせてみな旦那!」
「馬鹿な…」
幸村はユルユルと首を振る
「俺は知っておるぞ、お前も慶次殿を慕っていることを…俺に遠慮をして何も言わぬが本当は…」
「旦那」
佐助は声音を落として幸村を説く
その顔は主に仕える忍の表情だった
「俺は旦那に仕える忍。主の喜びは俺の喜び。それ以上のものは存在しない」
「佐…助…」
それでも尚、戸惑う幸村をおいて佐助は一人隣の部屋へ戻った
痛み止めの入った特製の塗り薬が効いているのか慶次は静かな寝息をたてている
佐助は屈み込んでそっと慶次の前髪を梳くと、口元の紫の痣を見て眉根を寄せた
こうしなければ
慶次と幸村に待っているのは破滅だ
(旦那に恋情なんて教えちゃいけなかったんだ慶ちゃん)
あんなに忠告したのに
そのたびにムキになって恋の素晴らしさを力説する慶次に
いつの間にか忍である自分までも惹かれてしまった
(…でも、やっぱり俺は忍なんだよ)
自分のことより、好いた人より
主を選ぶ
(ごめんね慶ちゃん…こんな俺を好いてくれて、ありがとう)
佐助はそっと慶次の唇に触れるだけの口づけを落とすと顔を上げた
眼光を鋭くし精神を集中させ
「禁術!」素早く印を結んだ
*******
不意に目を覚ました慶次は見慣れない天井に目を瞬かせ体を起こした
「うッ」
体の節々が軋むように痛む
「…ここは」
見覚えのない立派な部屋に戸惑っていると、スルリと障子が開いた
「!」
起きている慶次を見て驚いたのか
廊下に突っ立って中に入ってこようとしない男に声をかける
「…あんたは誰だい」
慶次に問われ弾かれたように傍に駆け寄る
「某…真田源次郎幸村と申す…慶次殿…」
「真田…幸村…」
逡巡してああ!と手を叩く
「うん!そうだ!虎のおっさんに会いにきたついでにあんたと喧嘩したんだったな!」
「……慶次殿…」
幸村の目は不安に揺れている
「それで…あれ?どうしたんだっけ…」
首を傾げる慶次に幸村はたまらず
頭を畳に叩きつけた
「慶次殿!すまぬ!どうか某を許して下され!」
「えっ…ちょ!なんだよいったい」
ただひたすら許しを乞う幸村の伏せられた頭を見る
「ああ…あんたもしかして俺が怪我したから謝ってんのかい?
いいんだよ、いきなり喧嘩ふっかけたのは俺の方なんだし」
「慶次殿…」
幸村は悲しげな表情で慶次を見上げた
「そんな泣きそうな顔するなって」
そう言ってニッコリと笑った
幸村は二度と自分に向けられることはないと思っていた慶次の笑顔に
胸が締め付けられる
「あんたっていい人だな。なぁ、幸村って呼んでいいかい?」
「むっ…無論にござる!」
(慶次殿っ)
幸村は叫びたくなる程の罪の重さに
ぐっと唇を噛んだ
*********
慶次の長刀に払われた幸村の槍が空を舞って地面へ突き刺さる
「くっ…参った!」
「はぁ、参ったのはこっちだよ」
慶次は両腕を空へ高く上げ、目一杯背伸びをした
「某の鍛錬が足らぬゆえ、
いつまで経っても慶次殿の足元にも及ばぬっ」
「いやいや。幸村は十分強いからっていうか、
その鍛錬に毎回付き合わされる俺の身にもなってくれよ」
いたたたっと二の腕を押さえる慶次を見て幸村が駆け寄った
「慶次殿!お怪我を!?」
槍が掠めたのか一線にうっすら血が滲んでいた
「あ〜、ちっと掠めただけ、舐めときゃ大丈夫」
「そうか…では某が」
幸村は顔を寄せ、慶次の腕に舌を這わせた
舌の生温い感触に慶次が飛び上がる
「なっ!なにすんだよ幸村っ!」
「ご自分では舐めにくいかと…」
慶次は顔を真っ赤にしてフイっと背ける
縁側から佐助が二人に声をかけた
「お茶入ったよ〜」
「応!すまんな佐助!慶次殿、茶にしましょうぞ」
「ん?ああ、そうだな。喉がカラカラだ」
縁側に腰掛けると、忍は音もなく消え去った
「佐助さんってすぐいなくなっちゃうね」
幸村は心なしか表情を落とした
「…佐助は忍ゆえ」
「ふぅん?そんなもんかい」
幸村が茶で喉を潤すより前に甘ったるい団子を頬張るのを見て慶次は苦笑した
「幸は団子が好きだね」
「ングっ…」
慶次は幸村の口の端についた餡を指先で拭いペロリと舐める
「幸村は好きな人はいるのかい?」
その問いに幸村はハッとした
慶次は幸村の様子に気づかず話を続ける「俺、…」
言葉を遮るように
幸村はありったけの大声で叫んだ
「そっ、某!慶次殿をお慕いしておりまするッ!!」
真横で叫ばれた慶次はポカンと口を半開きに目を見開いた
「慶次殿が好きだ!団子よりもお館様よりも!」
「ゆ…幸…」
「慶次殿が一番大切にござる!」
突然の単刀直入な告白に慶次はゴクリと息をのんだ
同じく木の上で気配を殺しながら佐助が固唾をのんで見守っている
(ちょ…旦那、時期尚早じゃない?しかもなんの捻りもない告白っ)
タラタラと額からこめかみに冷たい汗が流れ落ちる
幸村は茹で蛸のように真っ赤になりながら、それでもジッと慶次を見つめた
そんな幸村に慶次は静かに問う
「でもさ幸村と出会ったばかりだし、俺は男だぜ?」
「某は慶次殿の事をよく知っておる!
それに恋に性別は関係ないと申したのは慶次殿でござる!」
「え?俺そんなこと言ったかなぁ?幸村に恋話するの初めてだと思うけど」
「某は慶次殿に初めてお会いした時から…」
へぇと慶次は呑気な声を上げて面白そうに幸村の一生懸命な様子を眺めた
「それって一目惚れかい?」
幸村は首が折れるような勢いで縦に首を振る
佐助は深いため息をついた
(う〜ん…これは…)
慶次の前に極力姿を現さない様にしていたから、間違ってもまた佐助を好いたりしないだろうが
幸村を見る慶次の様子は弟か何かに対する親愛の情に近い気がして
佐助は胃がキリキリ痛んだ
(旦那…また失恋しちゃうんじゃないだろうな)
さすがに前回のようなことはないにしろ、主が酷く落ち込むのは間違いない
と、佐助は半ば諦めかけていたら
「俺も幸村が好きだよ」
「なんと?!」
(えっ!)
幸村が驚きの声を上げるのと同時に佐助も心中で驚いた
「そっ!それはまことか?!慶次殿!」
「ああ!言うつもりはなかったんだけど…まさか幸も俺を好いてくれてたとはなぁ」
慶次は嬉しそうにカラカラ笑った
「うう〜」
幸村は感極まったように唸り声を上げ、拳を握りしめている
「なぁ幸村団子を一個夢吉におくれよ!いま連れてくるからさ」
慶次も照れているのか、そそくさと立ち上がると松風の背で昼寝をしているはずの
夢吉の所へ駆けていった
視界から慶次が消えると、佐助は幸村の前に現れ縁側に座った
「やったじゃない!旦那」
「さっ!佐助ぇ〜っ」
泣き笑いで忍にすがる幸村はフッと笑みを消す
「佐助…お前は…本当にこれでいいのか」
佐助は辛そうな顔をする幸村の頭をクシャクシャと撫で回す
「俺様、旦那が小さい頃から仕えてんのよ?旦那の幸せがうれしくないわけないじゃない?
「佐助…すまぬ」
「いや〜、別にいいんだけどさ。まぁ、何ならお給料をもう少し…」
「佐助!両想いということは慶次殿を抱いてもかまわぬということだな!」
ブッ!佐助は豪快に吹き出す
「汚いぞ佐助」
「あっあんたねぇ!ちいっとは人の話…って突っ込みたいのはそこじゃなくて!!」
「なんだ?」
「ダメダメダメ!まだ早いよ!段階踏みなって!慶ちゃん、乙女なんだからさ」
「佐助…お前まるで俺の母親のようだな」
慶次がこちらに駆けてきた気配を察した佐助は幸村に釘をさす
「とにかく、まだ手を握るだけ!いい?旦那!」
目くじらを立てながら再び姿を消した佐助に幸村は小さく笑い
心の中で礼を言った
(佐助かたじけない…俺はもう二度と間違いは起こさぬ)
「幸村〜、俺にも団子一本おくれよ!」
肩に小猿をのせて
花が咲き誇るように華やかに笑う慶次を幸村は両腕を広げ包み込んだ
「ゆっ幸村っ」
慶次は慌てながらも、そろそろと幸村の背中に手を回す
「慶次殿、某必ずや慶次殿を幸せにしてみせますぞ」
俺がおかした罪
一生かけて慶次殿に償いましょうぞ
その笑顔を決して絶やさぬ
天に誓って…