手
慶次は携帯の画面を見て、しまったと呟いた
前田家の門限は夜9時
時間はとっくに過ぎていて、叔母まつからの着信履歴が何回も残っていた
「ヤバい…9時過ぎてた」
「まつ殿から?」
幸村は心配そうに慶次の顔を見上げる
幸村が入っている剣道部の対抗試合が近いため
同等の腕前をもつ慶次に練習相手を頼んだのだが、
つい夢中になってしまい気がつくと門限の時間を過ぎてしまっていた
「すみませぬ、俺が付き合わせたせいで…」
「へ?いいーって!俺も幸村といて楽しかったし!」
「まつ殿に連絡を入れぬのですか?」
慶次は頭を掻いて唸った
「まつねーちゃん、怒ると怖いんだよなぁ〜っていうかさ、
高校生で門限9時って早過ぎだよな」
「慶次殿が心配なのでござろう」
口を尖らす慶次を見て幸村が微笑む
「いつまでも子供じゃないんだけど…
幸村は一人暮らしだから気楽でいいよな」
「…だが、誰もいない部屋に帰るのはちと寂しゅうございます」
幸村の笑顔に少し寂しそうな影が浮かぶのを見て、慶次は手をとった
突然手を繋がれ幸村は顔を赤くしてうろたえる
「けっ…慶次殿?!」
「大丈夫、もう暗いから誰にも見えねぇって!」
慶次がギュっと強く握ると幸村も戸惑いながら指を絡めた
「慶次殿の手はお綺麗ですな」
「え、俺の手?そっか〜?」
幸村は慶次の手を見つめた
「はい。俺の手と違い白く指も長い」
愛おしそうに目を細める幸村を見て、慶次はそっと手を解く
「ちょっと待って」
「…はい」
名残惜しそうに見上げる幸村に断りを入れ
慶次は携帯をかけた
何やら電話の向こうに平謝りしているところをみると
叔母のまつと通話していることが窺える
幸村は学年が違う慶次と会う時間がなかなか取れないことに
不満を抱いていた
だが、慶次を困らせることは言えないと自分を叱責し、
先ほどまで握られていた手をジっと見た
「どうしたよ、溜め息ついて」
気づくといつの間にか通話を終えた慶次が幸村の手を掴んだ
「俺はさ、幸の手が大好きだ」
「お…俺の手など」
幸村の手は毎日の鍛錬で固く筋張っている
慶次はその手を自分の頬にそっと添えた
「幸の手…俺の髪を梳いてくれる時とか、俺を愛してくれる時とか…」
「け…慶次…殿っ」
慶次は悪戯っぽい視線で、幸村の真っ赤な顔を見ると、にんまり笑った
「優しくて好きだ」
そして、指先をパクっと口に含む
「なっ!?」
絶句する幸村をよそに慶次は指に舌を這わせ、チュウっと吸った
温かい口内と滑った粘膜の感触が指から伝わる
幸村はまるで己のモノを咥えられているような錯覚に
下半身がドっと熱くなるのを感じた
「慶次殿ッ!」
たまらず声を張り上げると、慶次はチュパっと音を立てて口から指を抜くと
手を引いて歩き出した
「続きは幸の部屋でしようぜ」
「え!?さ…されど、門限が」
「さっきまつねぇちゃんに幸ん家に泊まるって連絡したから」
「真にござるか!」
幸村の顔に喜びが広がる
「泊まるなら泊まるで早めに連絡いれろって怒鳴られたけど」
「慶次殿ッ」
余程嬉しいのか幸村は上背の慶次に抱きついた
「…幸、もっと甘えたり我侭言っていいんだからな」
「それならば」
幸村は声音を落として慶次の耳元で囁く
「一刻も早う、慶次殿を抱きとうございます」
「うん…俺も、早く幸村としたい」
慶次が熱っぽく応えると、今度は幸村が手を力強く引いた
「では、参りましょうぞ」
「おう!」
何度生まれ変わっても決して離れることのないように
互いに強く手を握り合った