紅蓮
暮れる陽の光と彼岸花が一面を赤く染めてゆく
篤に連れてこられた吸血鬼の村
年老いた村人は皆、自分を篤の弟だと歓迎してくれた
敵意のない瞳
牙があること以外は、そこらへんの農村の村人となんらかわらない印象に
明の心は揺れていた
婚約者の涼子は兄の子を身篭っているという
そんな二人をまるで自分の息子夫婦のように見守る人々
丘から眺める陽は見る間に飴のように溶け
山間に沈んでゆく
ふと足元に咲く彼岸花に視線を落とした
禍々しいほどに赤い…血のような花
いずれ生まれる子と三人で幸せに暮らすであろう兄を
この手で殺さなければならないのか?
自問しても迷いの振り切れない明は結論を出せずに
ただ風に揺れる花を見つめていた
優秀な、優しい兄
その出来のよさにコンプレックスを持ち逆恨みしたこともあったが
いつでも兄は自分の味方でそしてひたすら優しかった
どうしてこんなことになってしまったんだろう…
胸が締め付けられる感覚に唇を噛んだ
「明」
不意に声をかけられ振り返ると篤が
背後に佇んでいた
「……兄貴」
顔を上げ兄を見るが
メガネが夕日に反射してその表情がよくわからない
「……」
篤は無言で近づくと明の顔に手を添えた
その手を
明は反射的に振り払ってしまった
払われた篤の手が一瞬宙で固まり、静かに降りる
「ぁ…兄…貴……ごめっ…」
咄嗟の行動が兄を傷つけてしまったかと思い慌てて謝った
篤は口元に静かな笑みを浮かべて首を傾げた
「どうした明?…泣いてたのか?」
兄の言葉に初めて自分の頬を伝う涙に気づく
色々考える内に泣いていたらしい
軟弱な面を見られたことに対する羞恥で顔が熱い
きっと真っ赤になっているだろう
篤はいつまでも俯いたままの明を
今度は驚かさないようそっと抱いた
「…?兄貴……」
「明…今、たった今良いことを思いついた」
「何…?」
聞き返しても篤は薄く微笑んだまま、何も答えない
肩を抱く手に力を込め踵を返した
「涼子が晩飯を作って待ってる…もう陽も暮れたから帰ろう、明」
「…うん」
言葉の真意がわからないまま明は促されるまま丘を後にした
ざわめく鴉の鳴き声が不安定な心を不快にかき乱す
涼子の作った料理はどれも美味しかった
集まった村人と飲み食いし、ここが彼岸島と忘れるほど和やかな時間が過ぎる
やがて、夜もふけ気がつくと涼子は先に休んでいて
兄と二人で酒の杯を傾けていた
「… き…ら」
「え…」
「明、眠いのか?」
緩く首を振ると、地面がグラリと傾く感じがし
思わず片手を床について体を支えた
「……明」
声のする方に顔を上げるが、微かに焦点が合わない
酔ったのかと額を押さえる
「明、寝る前に風呂に入って体を温めろ」
「…ぇ……な…に…」
視覚だけでなく耳もエコーがかかったようにうまく聞き取れない
「ゴメ…兄貴……オレ、ちょっと酔った…かも…」
篤は明の脇に腕を差し入れるとグィと引き上げる
強引に立たせられた明は
半ば篤に引きずられるように家の外へ連れ出された
直ぐ隣の小屋が風呂場になっているらしく
篤は狭い戸を開け明を中へ入れると手早く衣服を脱がせていった
壁にもたれて立っているのがやっとな明は
兄のされるがままになっていた
さっきから聴こえる短い息使いが自分の呼吸だと気付き
さすがに何かおかしいと思い始めた
酔ったせいだと思っていたが、服を脱いでも体が熱くて堪らない
木で作った簡素な風呂桶に熱い湯が張っている
篤は立ち上る湯気をボンヤリ見ている明の腕を引き
小さな椅子に座らせた
「小さい頃はよく一緒に風呂に入ったよな」
篤がタオルに石鹸を泡立たせながら言った
「……そぉ…だね」
明は短く答えるものの、先ほどより一層体温が上がっているのか
呼吸をするので精一杯だった
上半身も起こしていることが出来ず、風呂の縁にうつ伏せになって
肩で必死に空気を吸い込む
「明?」
「ぁ…あ…兄…貴……オレ………おか…し…カラダ…」
不意に篤は後ろから明を抱きしめた
背中に篤の厚い胸が
腹に篤の腕が後ろから巻きつく
!!
ビクンっと明は背中を反らせて震えた
触れた肌が焼けるように熱く
下半身に電気が突き抜けるような衝撃が走る
「うあぁ!!…ぁ…っ」
篤の手が明のペニスに伸びる
「ッ…や!やめ……!」
自分の性器に兄の長い指が絡みつく
篤は後ろから明の首筋を舐めあげた
明は逃げようと咄嗟に立ち上がったが力が入らず
膝立ちのまま、壁に寄り掛かった
熱い…とにかく熱かった
心拍が上がり胸が破裂するほど苦しかった
同時に体の奥から性的な快感を求める疼きが激しく
体に心がついてゆかない
完璧に勃ち上がった性器を兄が巧みにしごいている
親指の腹がカリを下から押すように擦り上げ
堪らず喘ぎ声が漏れた
「…くっ!…あ…ぁっ」
後ろの首筋から篤の熱い息が吹きかかる
「ふふ…明、気持ちいいか?イッもいいんだぞ」
「やっ…ダメ…だ!こんな…コト…ッ」
辛うじて理性で耐えるが、カラダは射精したくて仕方なかった
壁に爪を立て必死に激しい快感を散らそうとする明に
篤は根元を押さえ敏感な先端を刺激した
「ほら、もうこんなに先から溢れ出てる…明、見えるだろ?」
「あ…ぁ…兄貴っ…」
半透明な液体が溢れて兄の手を濡らしていた
篤は舌で明の耳の裏を舐めながら、尿道口に軽く爪を立て
もう片方の手で竿を強く扱いた
「やッ…ッ!!」
瞬間、激しい快感が体を突きぬけ目の前が一瞬白くなり
同時に勢いよく射精した
開放感は一瞬で、萎えるどころか更に固さを増した性器が
ビクビクッと腹につく勢いで反り返る
「ぁ…なっ…なんで…」
自分の体の異変に戸惑い肩口に篤を見た
篤は手の平の精液を舌先で舐めとり
満足そうに口の端を歪めて笑っていた
鋭い牙と赤黒い瞳
残酷な笑みに明は目を見開いて見つめるだけで精一杯だった
「薬だよ、明」
「…ぇ……」
「島でとれるある植物から生成する薬だ…一種の媚薬で常習性がある」
酒に入れておいたんだ、と説明する間にも篤は
精液で濡れる手を静かに尻の間に割り込ませ
入り口を解すように指の腹を押し付けた
「や!止めろッ!!兄貴ッ……!」
明は力の入らない手で必死に篤を押しのけようとするが
単に手を添えてる状態に過ぎなかった
篤はゆっくりと長い指を穴に差し込んだ
「!!うぁ…や…やめ…っ…」
異物感とそれ以上に味わったことのない快感が
差し込まれた場所から体の奥へと広がる
あまりの良さに意志に反して
ビュクビュクと精液がペニスからほとばしる
「ひィ…っ」
立て続けの射精に腰がガクガク震えた
それでも性器の熱は収まらない
「…っぁ…や、ヤダ…ぁ……!」
涙を流し快感に震える弟を愛おしそうに見つめ
篤はその涙を舌ですくった
「何が嫌なんだ?明…気持ちいいだろう?何もかも忘れていいんだ」
「…ぁ…兄貴…っ」
「そうだ…明、オレの事だけわかっていればいい」
篤は指を少し折り曲げ前立腺を擦るように
抜き差しし始める
「あっ!あぁ!!」
甲高い声を上げて明の背がのけぞる
中からの直接的な刺激に明は無意識入り口を締め付けた
「あぁ…明、中が蠢いて俺の指を締め付けてる…」
その感触に耐え切れず篤は指を抜くと
入り口に自分の固く反り返ったペニスを宛がった
朦朧とする意識の中
明は必死で兄に訴えた
「ダメっ…それはダメだッ…兄貴!」
「何故?明も早く欲しいだろ?」
「や…ッ…兄弟で…こんな…っ」
「……兄弟?」
篤の冷たい声がしたかと思うと
突然狭い入り口を押し広げて
熱い棒が一気に最奥へ貫いた
!!!
「うあッ!!ぐッ…ああぁッ!!!」
視界が真っ白になる
内側から抉られるような衝撃に明は悲鳴を上げた
「あッ!あぁッ…たッ助け…ッ」
篤は根元まで明の中に収めると
ゆっくり明の背中に覆いかぶさり耳元で囁いた
「オレは兄弟だなんて思ったことは一度も無い…」
気が狂いそうな激しい快感と苦痛に
短い呼吸を繰り返し細かく震える明の首筋に
口付けた篤はおもむろに牙を立てた
「くあぁ!…ああッ…兄、貴…っ!」
噛まれた傷口から溢れる血液を舐めとる篤の舌が
愛撫するように動く
篤は中のペニスをギリギリまで引き抜くと
先ほどの前立腺の辺りに先端を押し付けるように
再び突き入れた
「うッ!!!」
明の性器が脈打ち
辺りに精液がボタボタと垂れ落ちる
射精の快感に後ろの穴がギュと締まり
篤も抑えることなく中に大量の精液を注ぎ込んだ
「ああぁ…明、凄くいい…お前のカラダはッ」
逆流して出てきた篤の精液が明の太ももを流れ落ちる
「…あ…ぁ…兄貴……ッ」
「明、好きだ…俺だけのものだ明…」
うわ言のように弟の名を呼ぶ篤は
明の震える腰を両手で固定し
叩きつけるように激しく挿入し始めた
「ひィっ…ぁあ!うあ…やッ止め…て!」
狂いそうな快感に明はただ悲鳴のような喘ぎを漏らすだけだった
差し込まれた狭い内壁が
篤の固く反り返ったモノを包み込むように伸縮し
奥へ深く突かれる度に強く締め付けた
結合部分が擦れ合い、お互いの精液がグチュグチュと卑猥な音をたてる
中出しした自分の精液が弟の中から
溢れ出るのを見て篤は嗤った
「明…そんなに締め付けるな、気持ちよすぎてお前を壊してしまいそうだ」
篤は貪るように明の首筋や肩に牙を立て
弟の体を獣のように犯した
「明ッ…俺の明!」
「あぁッ!!兄貴ッ!!もっ…許しっ…てェ!!」
兄の手と肉棒で
前と後ろを同時に犯され、電流のような激しい快感が下半身を突き抜ける
「ああぁ…あっ!でッ…出るゥ!!!」
「…っ…アキ…ラ!!」
篤は一層激しく腰を打ち付け、明の最奥にありったけの精液を注ぎ込んだ
「うあぁっ!!兄ッ貴!」
明も同時に腰をビクビク痙攣させ、大量の精液を射精した
『明、お兄ちゃんのこと、好きか?』
『うん!俺、お兄ちゃんのお嫁さんになる!』
『ははは、そうか』
遠くで幼い日の自分と兄の声が聞こえる
『でも、お母さんが弟はお嫁さんになれないって言ってた…』
悲しそうに俯く俺を見て
兄は一瞬苦しそうに眉根を寄せたが
すぐにいつもの柔らかい笑みを口元に浮かべた
『大丈夫だ、大人になったら…二人でどこか遠いところに行こう』
『遠いとこってどこ?』
『どこでもいい』
お前がいれば…どこでも…
お前さえ、俺のそばにいれば…
明、明…俺の明…
深い湖から浮き上がるように静かに覚醒した
ぼんやりした意識の中
兄の呪詛のような声を反芻する
幼い日の自分達は常に一緒にいた
食事も睡眠も…風呂も…
風呂…
不意に明は耳元の水音に気がつき
鉛のように重い頭を起こした
次第に意識がハッキリした明は自分が湯船に浸かっている状態だとわかった
「起きたか?…明」
耳元の囁きに驚き後ろを見ると
篤が明を後ろから抱きしめながら様子を眺めていた
「っ…!兄貴…」
先ほどの陵辱を思い出し、怒りと羞恥で目の前の男をキツク睨み付けた
「なんでッ…なんであんなコト…!」
「なんで?」
篤は質問の意味が解らないと言わんばかりに首を傾げた
そんな兄の素振りに苛立った明は
自分を抱きしめているその腕を振りほどこうとして
ふと手を止めた
?なんだ…この湯……
赤黒いような…
明は急に悪寒を覚えブルッと体を震わせた
寒い…?
湯に浸かっているはずなのに、急激に体温が下がっていくような寒さを感じた
次第に寒さのあまり奥歯がカタカタ震える
「ぁ…兄……貴」
篤は平然とした顔で相変わらず明の様子を見ているだけだった
瞬間心臓がドクンッ!と拍動した
「うッ!!」
思わず右手を左胸にあてた
ありえない速さで拍動している
「なっ…なに…ッ」
空気を吸っても肺が苦しくて仕方が無い
短い呼吸を必死に繰りかえす
「はっ…ぁはッ!あぁ…!」
篤はゆっくり明を抑えていた腕を湯からあげた
篤の腕には鋭い切り傷があり、血が止まることなく噴出していた
「……ぁ…兄貴…」
明は目を見開いた
先ほどの行為で、自分の体に篤から受けた噛み傷があることを思い出した
「ぁ…あ…や……ヤダ…ッ」
「もう遅いよ明」
篤の声はこの上なく優しく、そして至福の表情で驚愕と戦慄に震える弟を見つめている
「うあああぁぁ!!!!」
絶叫して逃げ出そうとする明を篤は再び強く抱きしめる
「グぅっ!!」
明は数回咳き込み、そして大量の吐血をし痙攣した
徐々に弛緩してゆく明の体を抱え、
篤は『どうして?』と訴えかける瞳に答えるように口を開いた
「夕方、いいことを思いついたと言っただろう?」
自分の胸に押し当てた弟の頭を愛おしそうに撫でた
「陽の光に照らされて…泣いてるお前を見て、やっぱり手放したくないって思ったんだ明」
それでね、と悪戯を思いついた子供のように口元に笑みを浮かべ
「お前を吸血鬼にすれば、俺の傍におけるって…」
あんなに激しかった拍動が次第に弱々しくなり
視界が白いモヤに包まれてゆく
薄れゆく意識の中
明は兄の言葉を聞いて狂っていると思った
「明?聴こえてるか?
俺に婚約者ができても、涼子が孕んでも…明にとってはどうでもいいことなんだろう?」
「…ぁ…に……き……」
「俺には明に仲間ができて段々離れてゆくのが…気が狂いそうな程苦痛だった」
「………」
「愛してる…明」
ボチャン!!
明の腕が湯の中に力なく垂れ落ち、首がガクンと仰け反った
篤は明の心肺停止を確認すると体にタオルを巻き、
抱えあげると風呂を出た
その奥にある簡素な蔵へ運び出し、片足で扉を蹴り開けると
急な階段を登り薄い布団が引かれている二階に明を横たえた
そして、篤は外から丈夫な閂を下ろし
明を監禁した