銀河
普段は花街の女や馴染みの連中とたわいない話をし
酒に酔って眠るので、殆ど夢を見ることがない慶次だが
その日は珍しく鮮明な夢を見た
何てことはない夢だった
ふと顔を上げると見知った城門前
満開の桜の香りに包まれながら、足を進めると
中庭の縁側に幸村がいた
「おーい!幸」
声をかけると幸村はハッと顔を上げ、年相応の屈託ない笑顔を浮かべた
縁側で団子を食い、茶を飲み
ハラハラと舞い落ちる花びらを見ながら、色々と話をした
ただそれだけの夢
長屋の格子から差し込む柔らかな朝日に
目を覚まし、ゆっくり体を起こすと
なんとなく口の中が甘く、ふんわりと花の香りが鼻孔に残っていた
不思議だと思いながらも、朝餉を運んできてくれた長屋のおかみさんと
天気の話なんかをしている内に記憶も薄れていったのだが
慶次はその日を境に連日幸村の夢を見るようになった
「なんでこう毎日、夢に幸村現れるのかな」
「む…まるで俺では不満がおありの口ぶり」
「不満じゃないけどさ…どうせなら可愛い子の夢の方がいいなって」
「破廉恥なっ!どうせ毎晩花街の女共と馬鹿騒ぎをしておるのでござろうっ」
幸村が真っ赤にした顔をプイっと横に反らせる
「へへ、妬いてるのかい?」
からかう様に笑う慶次に幸村は超刀を押し付ける
「下らぬことを申してる暇があるなら鍛錬のお相手をしてくだされ」
「ええ〜っ」
慶次が口を尖らせて不満を漏らすと幸村は懐からひょうたんを取り出した
「鍛錬が終わったら一杯やりましょうぞ」
「お!いいねぇ!それじゃ、さっさと終わらせますか!」
雀の鳴く声に目を覚まし
体を起こすと脇腹が軽く痛んだ
着物を捲くってみると微かに赤痣が出来ている
「…槍の柄が当たった痕か…」
先ほどの幸村との手合わせのとき、避け損ねて腹にぶつかったときに出来たのだと思ったが
「いや…あれは夢だったな…」
慶次はふっと小さく笑って首を振った
幸村とのやり取りは夢での出来事だったことを思い出し苦笑する
痕はきっと気付かないうちにどこかで打ったのだろうと自分を納得させ
再びゴロリと薄い布団に横たわった
よく眠ったはずなのに
いやに体が疲労していた
「慶次殿!遅いので心配致しましたぞ!」
いつも縁側にいる幸村が城門まで来ていた
「おう!悪い。ちょっと城下町を見て来たんだ。誰もいないんだな」
「…ここには慶次殿と俺しかおらぬ」
「ふ〜ん」
慶次が城門前の石段に腰を下ろすと、幸村も並んで座った
「毎日幸村と会ってるな」
慶次が呟くと幸村が間をおいて問う
「…もう…飽きてしまわれたか」
「へ?俺は楽しいよ。甲斐まで行かなくても幸村に会えるしさ。
幸村こそ、そろそろ独眼竜あたりと手合わせしたいんじゃないかい?」
「俺は…ずっとこのままでいい」
いつもの幸村らしくない様子に慶次が顔を覗き込む
「どうしたい!今日はヤケに辛気くさいな」
「慶次殿は能天気でござるな」
「ひっでぇ!よしっ!悩みを聞いてやるから話してみな!」
幸村は石段の下に広がる城下町を見下ろし、ふぅっと溜め息をついた
「慶次殿は年老いて死ぬまで風のように諸国を巡って生涯を終えるおつもりか」
「俺?さあ…先のことはわかんねぇな…でも」
「でも?」
慶次はグンっと空に向かって背伸びをし、その腕を幸村の肩に回した
「戦が終わって、どこの国に行ってもみんな幸せそうだったら
どっか一箇所に留まんのもいいかなって思う」
「それは!この上田でも良いのか?!」
幸村は鼻先が着きそうなくらい顔を寄せた
「え…俺みたいな風来坊を置いてくれんのかい?」
「むっ無論!かまわぬ!」
幸村は満面の笑みを浮かべて慶次を見つめた後
そっと唇を重ねた
「ゆっ…」
突然の出来事に驚いている間に、幸村の手が頭の後ろに回り髪をグッと下に引く
つられて上向きになった顎をもう片方の手で固定され、
開いた口内に幸村の舌がヌルリと入ってきた
「んんっ…」
奥に縮こまった慶次の舌を絡め取り、ジュルリと唾液ごと吸い上げる
ピクッと無意識に肩が跳ね、慶次は幸村の腕に縋りついた
「慶次…殿…」
幸村の熱っぽく掠れた声が慶次の聴覚を刺激する
「幸…村…どうし…」
慶次を見る幸村の目はいつもの真っ直ぐに澄んだものではなく
欲情に濡れた男の目をしていた
「ゆ…き……」
すっと目を開くと見慣れた長屋の天井
階下から野菜売りの声がした
鉛のように重い体を起こすと、口元を拭う
舌が口腔を這い回る艶かしい感触と幸村の低い声音
不穏な色をたたえた目が鮮烈に思い出され、慶次はこめかみを押さえた
それから一週間ほど、幸村は夢に出なくなった
「慶ちゃん、体の調子悪いんと違う?」
長屋のおかみさんが、心配そうに慶次の顔を見た
「大丈夫…最近はちゃんと眠れてるから」
運んできてもらった朝餉に手をつけようとしたとき、おかみさんが茶を入れながら溜め息をついた
「慶ちゃん知ってはる?なんや、昨晩甲斐の国境で戦があったらしいわ」
「甲斐…武田がッ?!」
「武田が国境まで来てた奥州の伊達を奇襲したとかなんとか…」
「え!?なんでっ!武田と伊達は同盟の話が進んでるって言ってっただろッ!」
「わてに怒鳴ってもわからへん。せやけど、伊達の殿様が一旦奥州の奥まで
兵を引いとるそうやから武田が優勢なんやろなぁ…」
慶次は箸を膳に置いて唖然とした
「慶ちゃん、ちゃんと食べなあかんで」
そういって、おかみさんが階下に下がっても慶次は動けずにいた
信玄が先の戦で怪我を負い、今は幸村に指揮が任せられているはず
「…なんでだよ…幸村」
「幸村ッ!!」
慶次はいつもの上田城ではなく戦場に立っていた
誰もいない平原を駆け、本陣の幕を捲ると幸村が穏やかな笑みを浮かべて迎え入れた
「慶次殿…お久しゅうごさいま…」
「幸村ッ!どういうことだよッ!!」
幸村が言い終わらないうちに慶次はその肩を掴んで揺さぶった
「…どういう…とは?」
「なんで戦なんかしたんだ!?政宗と和睦を結ぶつもりだったんだろ?!なんで急にッ」
幸村は甲冑を外すと、慶次の手を引き敷物の上に腰を下ろした
「進軍を決めたのは俺の一存にござる。
お館様の領地を荒らされぬよう、追い払ったまで」
慶次は驚いて言葉がとっさに出なかった
「慶次殿のお言葉で迷いが消えた。俺は慶次殿の為に一日でも早くこの世の泰平を目指す」
「え…じゃあ…じゃあなんで」
幸村の言動の矛盾に慶次が戸惑っていると、グイっと胸倉を掴まれ押し倒された
慶次は圧し掛かる幸村の胸板を押しのけようとして
腕に力が入らないことに気付いた
「な…」
「俺は常日頃考えていた」
幸村は怯える慶次に優しく囁いた
「俺は戦しか能がない。人を殺めることしか出来ない俺が泰平の世になったらいかに生きれば良いのか
この世に生きながら一人取り残されるような不安を感じるとき、慶次殿…俺はそなたを思い浮かべる」
「幸村」
「慶次殿は紅蓮の鬼と恐れられる俺にも分け隔てなく微笑みかけて下さる」
「……」
「そなたは俺の安らぎだ」
幸村は慶次の首筋に顔を埋め、皮膚を強く吸い上げる
チクっと痛みが走り慶次は目を細めた
「ゆ…幸村、やめろ」
「戦が終われば、慶次殿は俺の傍にいて下さると申されたな」
「言ったよ!なのになんで戦をするんだ!」
「諸国と逐一和睦など結んでいてはこの生が終わってしまう。俺はそんなに気が長い方ではない。
戦を終わらせるには早く他国を支配するのが一番手っ取り早い」
「!!ッ」
幸村は慶次の服を剥ぎとり、下帯に手をかけた
「やッ…!」
必死に体を捩るが、あっけなく幸村の逞しい腕で押さえつけられ
布の上から性器を擦られる
「やめろってッ!どうしちまったんだ!幸村ッ」
「慶次殿にはわからぬッ!!」
幸村の怒声に慶次はビクンと体を震わせて硬直した
「俺はッ!俺は明日にも死ぬかもしれぬ身!
お館様の天下も!そなたと泰平の世で生きる夢もッ!今、この瞬間に散ろうとしてるやも知れぬッ!
待ってなどおられぬのだッ!俺にはッ!俺には…」
幸村の真っ黒な瞳に涙が滲み、慶次の顔にポトリと落ちた
「幸村…」
「せめて…夢に向かって走っている間に死にたい。疲れて立ち止まったときに死ぬのだけは嫌だ…」
幸村の血を吐くような苦しい叫びを聞き、慶次は目を閉じた
幸村は涙を腕でグイっと拭うと自らの着物を脱ぎ捨て、慶次の頬に落ちた涙を舐めとった
「そう…そのまま、目を閉じていて下され。これはすべて夢ゆえ…」
そして優しく、慶次の瞼に口付けを落とした
「ぐッ…うッーー!!」
慶次の脚を左右に大きく開き、幸村はその間に腰を割り込ませると
己の怒張した一物を狭い後孔へ突き入れた
「痛ッー!」
慶次が苦しそうに顔を歪める
大きなカリをグイグイ力任せに押し込み、無理やり括約筋を押し広げ
亀頭部分を中に埋め込む
「あ゛ッ!!う゛ぅ…ッ!!」
慶次のキツク閉じられた両目の端から、ボロボロと涙が溢れ頬を伝い落ちた
「く…っ、慶次殿、力を…抜いて下され」
「あぁっ…ゆ、幸ッ…」
あまりの狭さに幸村も動けず、そのまま上体を倒して慶次の顔や首に舌を這わせ肌を吸った
次第に慶次の呼吸が落ち着いてきたのを確認し
痛みで萎えた性器を優しく手で包み上下に扱いた
「…ふ…っ…ぁ…」
強い快感を感じるカリ首や裏筋を丹念に手淫してやると
慶次は甘い喘ぎを漏らし始めた
「あっ…ん!うっ…ゆ…きっ」
「慶次殿、俺は幸せにござる…もはや思い残すことは何もないっ」
無理やり開かれキツイだけだった結合部が幸村の一物を
奥へ誘い込むように蠢きだす
幸村は慶次の様子をみながら、ゆっくりと腰を推し進めた
腸液と先走りの液を潤滑油にズブズブっと猛々しい摩羅が呑み込まれてゆく
慶次は狭い腸壁を押し広げるように侵入してきた熱い肉棒に
たまらず縋りついた幸村の背中に爪を立てた
「ああ゛ッ!!幸村ぁッ!!い゛だ…ッ!」
「すまぬ!しばし、辛抱してくだされ!」
じっとりと慶次の額に滲む汗を拭いながらも、幸村は己のモノを根元まで中におさめる
「幸ッ…苦し…ッ」
慶次の中は熱く内壁が幸村の陰茎を包み蠢いている
咥えこむ後孔は蕩けるような程よい弾力で根元を締め付け
味わったことのない凄まじい快感に幸村は呻いた
「…ッ…慶次、殿ッ」
思いっきり精を放ちたい衝動を堪え、ゆっくりと肉棒を途中まで引き抜く
亀頭が中の膨らみを擦り上げたとき、慶次の腰がビクンっと跳ね上がり
悲鳴に似た甲高い嬌声が上がった
「うッ…あぁっ…ん…!」
キュウっと幸村のモノを搾り取るように腸壁が窄まり、その心地よい吸い付きに
幸村は堪らず少量の精を中で放つ
「くッ…もう我慢ならぬッ」
慶次の腰を高く持ち上げると、角度を定めて叩きつけるように激しく腰を動かした
「ひィッ!!あああぁッ…あ゛!幸ッ!!」
グリグリと前立腺を中から突き上げられ、そのたびに電流のような
強い快感が腰から脳天に突き抜けてゆく
「あーッ!!あぁッ幸ッ!ゆ…ッ!幸村ぁッ!!」
「慶次ッ!慶次…ッ!」
幸村は勃起した摩羅をズルリとギリギリまで引き抜き、
勢いをつけ一気に最奥へ突き立てる
その激しさに慶次は一層幸村の背中に縋りついた
「あ゛ッ幸ぃ!うあッ!で…出るッ!」
中からの刺激と幸村の固い腹筋に慶次の勃起した陰茎が擦られ、
ビュルビュルっと白濁した精を放つ
「あああぁぁっーーッ!!」
「慶次殿ッ!俺も…ッ」
幸村も慶次の中に勢いよく射精しながら、激しく腰を打ち付け続けた
じゅぶっと水音を立てながら幸村の精液が後孔から漏れ出て股を濡らす
射精するごとに増す、その強い快感を求め続けるように
慶次は幸村の腰に脚を絡め、幸村も慶次の体を壊れるほど揺さぶって
猛りきった肉棒を突きたてた
誰もいない戦場に嬌声と息遣いが響き
本陣幕がひとつに絡み合い蠢く影をうつしていた
雨だれの音で目が覚めた
「…幸村……」
朝から薄暗く、シトシトと細い針のような雨が絶え間なく降っている
起き上がろうとして、慶次は呻いた
ズキっと鈍く痛みが走り、気だるい快感が腰に残っている
ヌルリと濡れた感触に着物の中に手を入れると
後孔から溢れる精液が下半身を汚していた
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「旦那、兵糧もつきてる。一旦城まで引いた方がいい」
佐助は本陣で指揮をとる幸村に提言した
信玄の怪我もあり、今は事を荒立てない方が得策だと
国境まで下りていた伊達と和睦を結ぶはずだったのが一転
幸村の独断で戦になってから三日が過ぎた
佐助には幸村が情緒不安定に感じられた
幼い頃からただひたすら
お館様の為に戦に勝つことだけを徹底的に教育されてきた幸村
ずっとそばで仕えてきた佐助はそのことが一番の気がかりだった
人を殺めて武功を上げる
それだけを洗脳のように教え込まれ、幸村自身も何の疑問も抱かず生きてきた
あの風来坊がくるまでは…
ふらりと現れた慶次が幸村に
全うな人としての感情を説いてからは少しずつ変化を見せ始め
佐助はそれを暖かく見守っていた
幸村に微かな違和感を感じたのは慶次がまたふらりと甲斐を去った後
恋わずらいのように呆けていることが多くなった
そんな矢先、大将が戦で負傷し幸村に全権が託された
立派に軍をまとめてはいるが、どこか心ここにあらずといった感じがする
進んでいた和睦の話を突然ひるがえし、反撃に出したあと
もう三日も本陣を動かずにいるのも気がかりだった
「旦那…聞いてる?」
「…進軍する」
「はぁ?!俺様の話聞いてた?三日も無駄にいるから兵糧が尽きてるんだって!」
「伊達殿を討つ」
「ちょ…、どうしたんだよ旦那!向こうは十分体勢を立て直してるんだぜ?」
「俺に命令する気か?佐助…」
幸村の黒い瞳が仄暗い洞窟のように虚ろで
佐助はゾクリと背筋が凍りついた
「少し横になる。お前は準備をしていろ」
幸村は佐助を陣から追い出し、香炉を取り出した
慶次が甲斐から旅立ったあと、幸村の胸に穴が開いたような虚無だけが残った
なるほど、これが心を奪われるという感覚か…と妙に冷静に思った
慶次に会いたいと想う気持ちは日ごとに増し
いるはずもない彼の姿を探しながら城下町を彷徨っていた時
西から来たという行商が幸村に声をかけた
『この香炉で香を焚きながら眠ると、夢の中に想い人を呼び寄せることが出来る』
南蛮の品だと男が差し出した香炉は、薄茶色の寂れたものだった
他国から来たこの男はまさか年若い幸村が城主だとは思いもせず
ただの古ぼけた香炉を高値で売りつけようとしたのだろうと、
幸村はそう思いながらもその香炉を買ってしまった
本当に夢で会えるなどとは思っていなかった
ただ、風流なことを好む慶次が香について話をしていたのを思い出し
自分も共感したいと思っただけだった
『あまり多様すると、妖に憑かれますのでご注意を…』
使い始めて香炉の効果が本当であったことと
男の残した言葉の意味を知った
眠っていても起きているのと同じ状態なので、眠りが足りない状態になり
日に日に疲労が増し衰弱してゆく
それでも幸村は香を焚くのをやめることができなかった
伊達軍を猛撃した翌晩、慶次を夢の中で抱いて三日が過ぎた
魔物の力でも何でもいい…
夢の中ならあの方はいつも俺のそばにいる
幸村は香炉にいつもの桜の香りがする香を盛った
「それかい?おかしな夢を見ちまう原因は」
「……」
幸村は口を半開きにただ唖然と目を見開いた
「ったく、腰が痛てぇのに松風に無理させて三日で甲斐まで来て、
なんの持て成しもなしかい」
慶次がニンマリ笑って幸村を見る
「慶次…殿…何故」
「何故?おかしなこと言うなぁ。幸村がいてもいいって言ったんだぜ?」
「俺が…」
「一生俺の面倒見てくれるんだろ?さ、上田城に戻ろう」
幸村は慶次を見つめたまま声を落とした
「なんの…事にござるか…俺には身に憶えが…」
「ごめんな幸。俺が軽はずみな事言ったから」
慶次は近づいて幸村の肩に頭をのせた
「幸村は武将だから、平和な世になる前に死んじまうかもしれねぇもんな」
「…っ」
「焦らせちまってごめん…」
「……」
幸村は唇を噛んで、強く拳を握った
「…慶次殿ッ!俺を殴ってくだされッ!慶次殿にした仕打ち、これで許されるとは思わぬが…ッ」
慶次はフッと笑って超刀を振り上げた
「そうだな…破廉恥行為の落とし前、つけてもらおうかな」
そう言って、ブンっと凪ぎ下ろす
ガッシャンと音を立て、香炉が砕け散った
「け…慶次殿?!」
超刀が脳天に落ちてくると思い、歯を食いしばって構えていた幸村は
驚いて割れた香炉を見た
慶次は悪戯をした子供のようにチロリと舌を出す
「もういらねぇだろ?俺がずっと傍にいるんだからさ!」
「慶次殿っ」
幸村は堪らなくなって慶次の腰を抱くと、顔を寄せ唇を重ね合わせた
慶次も接吻に応えるように、そっと口を開き幸村の舌を迎え入れる
舌を絡める度にクチュっといやらしい音がした
「ん…っ、幸…」
「慶次殿」
慶次の下唇を甘噛みし、再び口内を味わおうとした時
「旦那〜…戦の準備…整い……え?…前田の…?」
流石の忍も動揺を隠せず、目を白黒させて主と風来坊を見やる
「佐助、半刻ほど後に城へ戻るぞ。それまで本陣に誰も近づけるな」
「へ?」
佐助がぎょっとしていると慶次が申し訳なさそうに言った
「佐助さん、俺、今日から幸村のとこに世話になるから、よろしくな!」
「…はぁ」
幸村は構わず慶次を押し倒しはじめたので、佐助は肩を竦めて苦笑した
「旦那、馬に乗って帰るんだから慶ちゃんに無理させないでよ」
「わかっておる!早く人払いをしろ」
「はいはい…っと、慶ちゃん」
「んっ!ぁ…な、何?」
幸村に喉元を吸われながら、慶次が潤んだ目で佐助を見上げる
色っぽいな…と一瞬目を奪われそうになりながら
佐助は微笑んだ
「ありがとうね。旦那をよろしく」
忍が姿を消すと、求め合うように互いの着物を脱がせ抱きしめ合う
いつの間にか割れた香炉の欠片は跡形もなく消え
残ったお香の仄かな桜の香りが二人を包んだ