「…すまんな、明」

雅はそっと冷えた明の手に口付けを落とした
開くことのない瞼に
動かない唇に

口内から溢れる血はまだ生暖かく
舌を差し入れて、一滴も残さぬように舐め取る

明を形成する全てが大切だと思う
全てを支配したいと思う
そして、自分も同じように明に求められたいと思った

初めてこの感情が人間の言う愛だと知った

決して屈しないあの強い視線
真っ白な魂

どんなに力があっても
どんなに激しく求めても
結局手に入らなかった

「…明」

長く伸びた前髪を指先でかきあげる
まだ、青年というには早く、どこか幼さが残る顔を見つめた

「人間のまま…死なせてやりたいが」

許してくれ

詫びながら雅は明の服を引き裂いた
死闘の果てに、その精悍な肉体は裂傷で赤黒く汚れている



雨だれの音を
夏草の青さを
鈴虫の鳴く声を
舞い落ちる雪を

明のいない世界が永遠に繰り返されることを
初めて怖ろしいと思った

血を吐きながら繋いだ明の言葉は
命乞いでも呪いでもない
たった一言
別れの言葉だった

復讐心のみで雅を追い続けたはず明が
最期に微笑んだ



雅は牙で自分の腕を引き裂き、噴き出す血を明の体に注ぐ

「…やっと……私のものになる」

焦りや不安から解放されるのを感じた


明が穏やかに過ごせるように
その魂が永遠に白くあるように

誰にも触れさせぬよう、この腕に抱いて
大切に、大切に守っていく

「愛している」


このまま置いてゆかれるくらいなら
恨まれても憎まれても構わない


「…明…私は死ねないんだ…」

だから
己の罪に引き摺り込む事を
どうか許してくれ、と

雅は愛と謝罪の言葉を繰り返した