暗色


ユキとの婚約が決まり、祝いの席が宮本家で行われていた
そこに兄、篤の姿がない事を明は寂しく思っていた

あの島から奇跡的に本土へ戻って数年が経つ
篤は直後に家を出てしまった
たまに携帯へ連絡がくるが、こちらからかけるといつも圏外で
兄が一体どこで生活しているのか不明な状態だった

幸せそうなユキや両親の顔を見るとホッとするが
やはり兄にも祝って欲しいと思う

(兄貴のやつ…何処にいるんだよ…)

思いを馳せていると、携帯の電子音が鳴り響いた
サブディスプレイに浮かぶ兄の名前

明は慌てて携帯をとった
「兄貴?!」
「…明?どうした?」
いつもの穏やかな声に安堵し、明は不満をぶつけた
「兄貴、どこにいるんだよ!たまに家に帰って来いよ」
「はは…すまん。元気そうだな明」
「兄貴も元気そうで良かった…今日さ、…」
言葉を切り、静かに息を吐く

「今日、ユキと婚約したんだ。今ウチに親戚とか集まってて」
「…………」

「やっぱり兄貴がいないのは寂しくて…兄貴?」
「……」
呼びかけても返事がない

「…もしもし?兄貴?」
「…そうか」

聞いたことがない掠れた低い声だった

「兄貴…」
篤の声音を聞いた明は一瞬不安になったが
それはすぐに打ち消された

「おめでとう、明」
さっきとは間逆の明るい声で祝福され明は自然に微笑んだ
「うん…ありがとう、兄貴」

「俺も明に会えないのはやっぱり寂しいな…」
「俺だって兄貴に会いたいよ…いつまでケータイも通じないようなとこで暮らしてるんだ」
篤はケータイの向こうで笑った
「電波が入るところまで来るのも大変なんだ、だからなかなか連絡も出来なくてな」
「なぁ、兄貴。一回こっちに戻らないか?俺、兄貴の顔が見たいよ」

「……そうだな、明。お前がこっちに来い」
「え?俺が?だって兄貴どこにいるんだよ…」

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明は篤に教えられた駅に立っていた
駅を乗り継ぐたびに駅も電車も規模が小さくなり、数時間後無人駅に一人だけで降りた
線路の先はない
ここが終着なのだろう、一両しかない電車は元の線路を引き返していった
生い茂る木々がざわめく音を聞きながら、徐々に小さくなる電車を見つめ不意に
あの島を思い出した
脱出不可能な絶海の孤島
思わず身震いをした時、後ろから肩を叩かれ明は叫んだ

「うわぁ!!」
「……明?」
振り返ると篤が驚いた顔で明を見ていた
「えっ、あ、兄貴か…」
胸を撫で下ろすと、篤が優しい笑顔を浮かべた
「久しぶりだな、明」

前に会ったのはいつだっただろう
変わらず小奇麗で聡明な顔をした兄を見上げる

「兄貴」
「長旅で疲れただろう?実は悪いがここからまだ歩くんだ…大丈夫か?」
いつも人を気遣う篤の変わらない様子に明は嬉しくなった
「大丈夫だって!早く兄貴の家に行こうぜ」
「家っていうか…山小屋なんだけどな」
明の笑顔に篤も嬉しそうに微笑んだ

無人駅から2時間以上も歩き、木々が折り重なる深い山奥まできていた
途中からは道がなくなり、ただ篤の背中を頼りに付いて行くしかなく
明は方向も何もわからなくなってしまっていた
さすがに額に汗が滲む

「ここで休んでおくか」
篤が指差した先から水の音が微かに聞こえる
ついて行くと綺麗な清流があった
とたんに喉の渇きを憶えた明は駆け出して、川辺に寄り、手で水を掬って飲んだ
冷たい水が疲れを和らげる
思う存分水を飲んでふと思った
兄貴はこの辺りの地形を把握しているようだが…何故、あえてこんな所に住んでいるんだろう
こんな山奥にくるなら、篤に口止めされていてもユキに一言言って出てくるんだったと少し後悔した
「なぁ兄貴」
「ん?」
同じく横で水を飲んでいた兄の唇が水に濡れていて、思わず目を奪われてしまった
「?どうした明」
「え…ぁ、えっと、何でこんなとこに住んでるんだ?」
「ああ、そのことか…」
それはな、と意味深に口元を上げながら篤が近づく
その瞬間
篤の拳が明の腹に食い込んだ
「ぐゥ!!」
グラリと体が傾き、意識が闇に包まれた


気がつくと見慣れない天井がぼんやりと見えた
大きく頑丈そうな梁が屋根を支えている
明はとっさに手探りで床に手を這わせた
(ない…)
日本刀が見当たらず、慌てて重たい体を起こしす

「起きたか?」
声の先を見ると篤が土間から居間へ上がってきた
「え…」
わけがわからず呆然と兄を見上げた

「日本刀なんて必要ないだろ?明」
篤は明の様子をみて小さく笑った

見渡すと茅葺屋根の民家らしかった
柱や家の造りからだいぶ昔のもののようで、高い屋根のせいで中は薄暗い

序々に記憶が鮮明になり、やっとここがあの島ではないことを認識し
そして兄に気絶させられたことを思い出した

「兄貴ッ!なんであんなことするんだッ!」
「…すまん」

そう言いながら篤はかがみ込むと明の顎を捉えた

「ずっと明に触れたいと思っていたんだ…」
「…え…?なに……」

篤の形の良い唇が近づき、そのまま自分の口に重なった
生暖かい感触
微かに離れ、角度を変え再び重なる

キスをされていると分かった瞬間、両手で兄を突き飛ばした

「…明」
篤はずれ落ちた眼鏡を指先で直すと困った顔をして明を見た
「何すんだ兄貴っ!ふざけるなよ!」
明は顔を真っ赤にして唇を拭う

「俺は…ふざけてなんかない。明を抱きたいんだ」

(だ…抱き…たい?)
明は唖然とした

何が起こっているの理解できないが、このままここにいてはいけないと感じ立ち上がった

「…俺、帰るよ」
「明、それは出来ない」

篤の言葉を無視して土間へ下り、靴を履くと外へ出て立ち止まった
道らしい道が見当たらない
家の周りは畑があり、その先は鬱蒼とした木々が生い茂っている

「明…おいで」
振り向くと兄がこちらへ近づいてきた

道がなくても適当に山を下りれるだろうと、明は足を踏み出す
その時、兄のいる真後ろから石が飛び、明の行く先の木々の間へ落ちた

瞬間どこからともなく放たれた矢が石の落ちた箇所に突き刺さる

(…な…ッ)
驚きのあまり、足が張り付いたように動かない

「この辺り一帯に罠を仕掛けている。無闇に動くと…死ぬぞ」
「…兄貴」

篤は明の腕を掴むと引きずるように家の中へ連れ戻した



静かな山中に嬌声が響く
「う゛あぁっ!やっ…やめっ…あ゛!ああぁっ」
明は何度目かわからない射精に腰を震わせた

床には白濁した精液が水溜りをつくって辺りを濡らしている

篤は四つん這いの明に覆いかぶさり
後ろから激しく腰を使っていた
肌がぶつかり合う乾いた音と共に
繋がった部分からくちゅくちゅと卑猥な水音が立つ

「やっ…やめろっ!もっ、やあ゛ああっ!!」
ズルリと引き抜かれ微かに力を抜いた瞬間
再び最奥へ激しく打ち込まれる

「うぐっあぁ!!」
びゅくっと明の性器の先端から精液が弧を描いて飛び出る
太い肉棒が突き上げる圧迫感と強い快感に悲鳴を上げた
「やぁ!やめでッ!!おねがっ…もっ…あ、ああぁッ!!」

明の懇願を無視して
篤は締め付ける粘膜の温かさとキツさを楽しむように
後孔へ屹立した肉棒を打ち込む
「明ッ!ずっと…お前をめちゃくちゃに犯したかったッ」
篤は震える明の背中にそっと口付けを落とす

明の腰骨をガッチリ手で固定すると勢いよく自分の方へ引き寄せ
同時に亀頭で前立腺を刺激するように擦り上げた

「あ゛ッ兄貴…やだッぁあ、あ゛ぁッ!でっ…出るッ!!」
内壁の粘膜と前立腺が擦られる度に
電流が走るような快感が体を駆け抜け
明の尿道口からは壊れたように精液が垂れ流れた

篤も何度も明の直腸へ精液を注ぎ込んだ
中出した篤の精液と腸液が混ざり合い
怒張した肉棒を差し込む度、逆流して溢れ出る

「明ッ…明ぁ!!」
吸い付くように収縮し篤のモノを咥え込む穴を
貪るように犯し続けた

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縁側で畑仕事をする篤を見ていた明は立ち上がって声をかけた
「…兄貴、俺も手伝う」
篤は少し驚いた後、もっていた鍬を渡した
「……そうか?じゃあ、頼む」

あれから数ヶ月経っていた
最初はなんとか脱出する手立てがないか考えたが
無駄とわかると縁側で放心したように外ばかり見ていた

兄は飼っている柴犬を連れ、たまに麓に必要なものを調達しに下りて行った
その後をつけようと思ったがあの兄に気づかれずに後をつけれるはずがない
まして犬を連れている
地雷のような罠がどこにあるのかわからない以上身動きひとつとれないし
こちらから救出を求める手立てもない

本土だというのに、ここはまるであの島とそっくりだった

明は次第にこの状況に慣れていった
慣れとは恐ろしいもので
数ヶ月も兄以外の人間と会わずにいると自分の中の基準が篤になってくる
篤が起きたから自分も起き、飯を食う
抱かれることも最近では普通に思えてきた

することがなくて暇だったのもある
今まで縁側で何をするわけでもなく篤を見ているだけだったが
明は自分から手伝いを申し出た

「明はここから土を耕してくれ、俺が苗を植えていくから」
「うん、わかった」

その日を境に明は少しずつ篤の手伝いをした
そしていつの間にか
あの島にいた頃と同じように訓練をしたり自給自足の生活をしていた

夕食を終えた後
わずかな灯りで本を読んでいた篤を見て
明は不安にかられた

もし、ここから脱出できたとして普通の生活が送れるのだろうか…

あの島を出て本土に戻った時は自分にはユキや仲間がいた
だが涼子失っていた篤には心の支えになるものがなかったのではないかと思った

軟禁している張本人だというのに、篤の存在が大きくなり過ぎて
今までのようにユキを愛せるか明にはわからなくなっていた

今の自分にとって篤がすべてだ
おそらく兄も自分を離しはしないだろう

明の小さなため息に気づいた篤がそっと本を伏せる
「どうした?明」
「……兄貴」

篤の顔が近づく
キスをされると思っただけで体の芯が熱くなる
明は口を薄く開き、篤の唇に重ねた
「んっ…ぁ…」
篤の舌が口内を舐めまわす
歯茎をなぞられ、ゾクゾクと快感が沸き起こり明も必死で篤の舌に絡ませた
くちゅくちゅと唾液が混ざり合う
篤の手が伸び、明の服をたくし上げ胸の突起を指の腹で転がす
「あッ…んっ…」
思わず声を上げ唇を離すと、透明な唾液が伝い落ちた

「…明」
篤の欲情を含んだ熱い眼が明を見つめた
明の服を剥ぎ取り、裸にすると反応し始めている性器を口に含んだ
「あっ!あぁ、兄貴っ」
深く口で包み込み舌で竿を舐め上げる
ビクンと性器が脈打ち硬さを増した
勃起したペニスの裏筋に舌を這わせ、尿道口に尖らせた舌先を差し込む
「うあ゛っ!!」
ビリっと電気が走るような刺激に明は腰を浮かせた
再び咥えられ、口全体で強く吸われるとピュッと先走りが溢れる
「あ…ぁ…兄貴、も…ぅ…出そ…」
息を上げながら潤んだ眼で篤を見た

「…こっちだけでイってごらん、明」
「え…?あっ!ああッ」

篤は口を離すと明の後ろの穴に人差し指をクチュっと差し込んだ
毎晩篤を受け入れてる明のそこはすんなり指を呑み込んだ
体に刻まれた快感の記憶が湧き上がり
物欲しそうにきゅうきゅう締め付ける

「…指じゃ足りないみたいなだな」
「あぁっ…兄貴ぃ…」
明の性器の先端から次々に透明な液が滴り落ちる
いつの間にか2本に増やされた指が前立腺を引っ掻くように中をかき回していた
ジュブジュブ音を立てながら指が激しく出入りし
それに合わせるように明は腰を振っていた
「あ゛ああぁッ!!い、イクッ!出るッ」
痙攣するように腰が跳ね上がり
反り返ったペニスからびゅるびゅるっと精液が出て腹を濡らしていった
「あ、あああッ!!イイッ!兄貴…ッ気持ちいいよォ」
ギュウっと篤の指を締め付ける

明の痴態に篤も呼吸を荒くして自分のモノを取り出した
勃起した大きなペニスを解した穴に差し込む
亀頭部分がズブズブと呑み込まれてゆく
「くっ…あき…ら!」
「うああぁ…ッ!お、にい…ちゃ…ぁあッ!」
一気に奥へ根元まで中へおさめると篤は快感を味わうようにゆっくり引き抜き
再び激しく突き入れた
「ひィ…ぁ!!」
「明、スゴいっ…お前のココ、俺のモノを咥え込んでこんなに喜んでるッ」
篤の太いペニスで腸壁をグイグイ擦り上げられる度に激しい快感の波が押し寄せ
明は無意識に後ろの穴をキュウキュウ締め付けた
後ろでイクことを教え込まれた明の体は篤でなければ感じなくなっていた
「あ゛あ゛あぁッ!!兄貴ッ!!」
「明ァ!!好きだッ」
「あ、ああッ俺も!兄貴ッ中に!中に欲しいッ!!」
ピンク色の濡れた後孔に硬い肉棒が出入りする
その激しさに堪らず明は勢いよく射精した
「うあァッ!あ…あッ!ああッ」
「くぅ…明!中に出すぞッ」
篤も弟の中にありったけの精液を吐き出した


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一年ほど経ったある日
明は昼過ぎに目が覚めた
昨晩はいつになく篤が激しく求めてきて眠りについたのが明け方だった

重い体を起こし、服を着ると篤の姿を探しに表へ出た
見渡せる範囲にはない
仕方ないので縁側に座ってひたすら待つことにした

このままいなくなってしまったらどうしようと心配になってきた頃
木々の間から篤が現れた

「兄貴!」
「明」
明は駆け寄って篤に抱きついた
首筋に顔を埋め、大好きな匂いを嗅いだ
「…どこ行ってたんだよ」
「すまん…明。仕掛けてた罠を全部撤収してきた」
「………え?」

篤は静かに明を引き離すと、家の中に入り明の荷物を持って出てきた
そしてバッグを明に持たせると木々の先を指差した

「あのブナの木の間から山を下れ。木に印をつけておいたから」

明はわけがわからず篤の顔を見た
「…どう…いう…事?」
「ごめんな明。ユキちゃんにも悪いことをした…幸せになれよ」
「……」
篤がポンと軽く明の背中を押す
つられて一歩足を踏み出し、明は指示されたブナの木の間から山を下り始めた
後ろで柴犬の悲しげな鳴き声が響いてる


数十分下りたところで明は突然立ち止まった
早くも陽が傾き始め、光が濃いオレンジ色に変わりつつある

(ユキ…)
やっと帰れるというのに、一向に喜びが沸き起こらない
それどころか篤との距離が離れるほど
不安感が増大してゆく
(兄貴…兄貴……)

ユキは俺がいなくてもきっと生きてゆける
でも兄貴は…いや俺は、もう兄貴なしじゃ生きていけない

明は二度と戻れないと分かっていたが決心し
山を登り出した
息を切らせて登り、元の家にたどり着いたが篤はいなかった
「兄貴!…兄貴!」
山間に沈みかけた太陽が禍々しいほど赤く大きく歪んでいる

その時、犬が吠えながら駆け寄り、再び走り出した
その後を慌てて追う

家の反対側の斜面を登った先に兄はいた

「…あ……兄…貴」
犬の鳴き声に振り返った篤は明を見て小さく目を見開いた
「どうしたんだ?明」
「兄貴……こっちに来い」
「…忘れ物か?」
「いいからッ!!早くこっちに来いよッ!!」
明は息を呑みながら静かに篤に近づく
心臓は破裂しそうな程、拍動している

断崖絶壁の先端に篤は立っていた

「明…俺…、涼子のとこに行こうかと思って…お前も早くユキちゃんのとこに戻れ…」
篤が足を踏み出す
「やめろッ!!!」
明は絶叫して篤に飛び掛った
寸前で篤の服を掴み、引き寄せる

明は倒れ込んだまま、力ずくで篤を開けた平地まで引きずった
折り重なるように抱き合って
明は泣いた
「明…」
「兄貴の馬鹿野郎ッ!!」
まだ消えない恐怖感のせいで体が細かく震えていた
篤は明の背中をそっと撫でる
「明…、俺…あの島から帰ってきたら何もなくて…お前だけが唯一だった。
一年だけ…一年だけお前を独占したら返そうと思ってた…けど」
「いいよ…兄貴、もういい」
「けど…手放したくなくて……もう死んでしまいたかった」
「もういいんだッ…俺は兄貴の傍にいる。一生傍にいる」
「あき…ら」
篤も涙を流し苦しそうに弟の名を呼んだ

明は顔を上げると篤の涙を舌先ですくいとる
誘われるように篤は明の唇を吸い、舌を這わせた
お互いの感触を確かめ合うように、角度を変え何度も重ね合わせる

「明…愛してる…」

明は初めて自分から篤を求めた
「兄貴、抱いてくれ」

夕闇が迫るなか
篤は一つに溶け合うほど強く、明を抱きしめた